潜在精巣

精巣は胎児のころにはお腹の中にあり、成長とともに移動し、犬では生後1~3カ月ごろには左右ともに陰嚢の中に降りてきます。しかし、生後半年を過ぎても精巣が陰嚢内に無く、腹腔内や鼠径部といわれる足の付け根の皮下にとどまることがあり、これを潜在精巣と言います。

 

 原因 

精巣で作られる男性ホルモン不足や解剖学的異常により起こります。

 

 発症 

トイ種小型犬に多い傾向にあります。

 

 症状 

陰嚢に精巣があることで温度を体温より低く保つことができ、精子が作られますが、腹腔内や鼠径部にある精巣では温度が高くなり、精子を作ることができません。また、老齢になると潜在精巣は腫瘍になりやすいことが知られています。

 

 診断 

触診で左右の陰嚢に精巣が存在するかを確認します。ない場合は鼠径部にあるのかを触診で確認し、さらにない場合は腹腔を腹部超音波検査などで確認します。小さすぎると確認できない場合があります。

 

 治療 

外科手術で摘出します。片方が潜在精巣の場合はもう片方が正常であれば繁殖が可能ですが、潜在精巣は遺伝すると考えられるため繁殖しない方が良いとされています。

 

 腹腔内の潜在精巣が腫瘍化してしまった症例 

柴犬の雪風ちゃん(10歳、柴犬)はお腹が張っている・食欲がないという症状で来院され、X線検査の結果、腹腔内に巨大な腫瘤が見つかりました。赤丸のあたりに腫瘤が存在するため、周辺の消化管が外側へ寄っています。

去勢手術を行っていないということと超音波検査、CT検査の結果、精巣腫瘍と診断しました。腹水もたまっており、強い炎症のためお腹が痛かったと思われます。


数日後に外科的に摘出しましたが、16cmにもなっていました。
(※クリックで写真が大きくなり、モザイクが取れます。)

幸い、転移の可能性は低いと判断され、現在は無治療で元気に過ごしています。

潜在精巣はこのように腫瘍になりやすく、転移したりホルモン分泌異常などが出てくる場合があります。
潜在精巣の場合は早期に去勢手術をおすすめします。
去勢されていないわんちゃん、気になることがあれば是非ご相談ください。

獣医師 沖田歩